●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2018年1月 リサイクル社会
歳末、家族と近くのスーパーで買い物を済ませた帰り道のこと。妻が「ちょっと寄り道をしたい」と言い出した。金歯(正確には取れてしまった金の歯の詰め物)を売るという。近くの歯医者で治療して詰め物を取り換えた際、「韓国では要らない金歯を引き取る場所があるから、売ると良い」と言われたのだそうだ。
ターミナル駅のそばで、靴の修繕などをしている場所で買い取るところがあると教えられたという。半信半疑で行ってみると、道ばたの小さなコンテナハウスのような店舗に、「靴修繕」という看板と「金買い取ります」という表示が出ていた。簡単に取引が成立し、7千ウォン(700円)で売れてしまった。
韓国と日本はリサイクルを巡っていろいろな違いがある。支局の韓国人記者に聞いてみると、韓国でリサイクル文化が上陸したのは20年ほど前。それまで、何でも一緒に捨てていたが、分別回収が始まった。今では、どこも大体、「生ゴミ」「一般ゴミ」「瓶」「缶」「プラスチック」といった感じで分別している。
焼却が主な日本と違って、生ゴミを堆肥にしたり家畜の餌にしたりするので、生ゴミと一般ゴミとを分ける必要がある。私はよく、卵の殻を生ゴミに入れそうになって、妻から怒られている。卵の殻は生ゴミのリサイクルで使えないから一般ゴミなのだという。前に住んでいたワシントンで何でもかんでも一緒に捨てていたこともあり、私は分別の意識が低くて、妻からよく怒られる。
ただ、韓国が発達した「リサイクル社会」なのかというと、そうでもない。
韓国には日本のようなリサイクルショップの数が少ない。これも韓国人記者に聞いてみると、服ならアウトレットで買えば良いし、家電の場合は買い替える際に、メーカーが無料で引き取ってくれるからリサイクルを考えないのだという。メーカーが回収した中古品をどうしているのか、部品を再利用しているのか、発展途上国などに売っているのか、そこまでは取材していない。
韓国ではインターネットが発達していることも影響しているようだ。韓国には、「中古ナラ(国)」という利用者が新古品や中古品を持ち寄って取引するウェブサイトがある。2003年12月に開設され、加入者は1600万人。実に韓国人の3人に1人が加入している計算だ。ここでも最近、日本で話題になったように、違法な品物の取引などが社会問題となったこともあるという。
韓国の「パンチャン(おかず)文化」もずっと続いている。食堂に入れば、主菜と一緒にナムルやキムチなど何種類もの副菜(パンチャン・おかず)が無料でついてくる。大体食べ残すし、残ったパンチャンを使い回す食堂が社会問題化したこともある。でもパンチャンを出さなかったら他の食堂にお客を取られてしまうから、やめるにやめられない。リサイクルも一朝一夕にしてならず、というところだろうか。
(朝日新聞社 牧野愛博)