●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2019年2月
悲鳴を上げる韓国の零細業者
先日、コートのボタンが取れてしまった。自分で直すかしばし考えた後、適当な糸がなかったこともあり、楽をして近所の修繕屋に持って行った。アジュンマ(おばさん)に見せると、お安い御用とばかりに、すぐにとりつけてくれた。値段は3千ウォン(約300円)。ここでは、衣類の簡単な修理もすぐにやってくれる。
韓国には、こんな「修理(スソン)」という看板を掲げた小さな店があちこちにある。誰でもすぐに商売が始められる小さな店が多いのは韓国の特徴の一つでもある。同じ経済水準の国に比べても倍ぐらいの多さなのだという。
理由は色々とあるだろうが、そのひとつに、財閥や大企業の支配力が強すぎて、中小企業が育たない風土があるようだ。たとえば、韓国のコンビニは「4強」と呼ばれる大手4社系列の店がほとんどを占める。この系列のコンビニで商売を始めることは、ある意味、ノウハウや資金の一部を提供してもらえるので、魅力ではある。他方、一度でもこの系列で商売を始めれば、途中で簡単にはやめられない。契約年数を満了しないでやめようとすれば違約金を取られるという。好立地で商売をしていれば、すぐに大手がやってきて競争店舗を作られて、つぶされるケースもあるという。
さすがに衣類の修理屋まで大手に独占されたという話は聞かないが、コンビニの場合は、韓国の全国どこに行っても、同じタイプの店が顔を並べている。
日本や欧州などに比べ、韓国はソウルだろうが、釜山だろうが、みな同じ顔に見えると言われるのは、こういう大企業の寡占状態と無関係ではない。
文在寅政権は今、労働者の最低賃金を猛烈なスピードで上げている。最低賃金は昨年に16・4%、今年は10・9%増えて、時給8350ウォン(約835円)になった。日本の最低賃金とほとんど変わらない金額だ。
でも、これで逆にアルバイトなどの雇用が減っていると言われる。あるコンビニ店主は「こんな時給で、アルバイトを雇えるカネはない」と話す。この店主の店は24時間営業。これまでは3交代で、昼間は家族で経営し、深夜や早朝をアルバイトに任せてきたが、アルバイトの賃金上昇で、ほとんどもうけがでなくなった。仕方がないので、家族で働く時間を増やし、実施的に2交代にしたという。最近はアルバイトの求人をインターネットなどに出すと、すぐに応募があるほど、「買い手市場」になっているという。
この店主は「李明博や朴槿恵の保守政権は大企業ばかり優遇していた。文在寅なら違うだろうと期待していたのに、今度は労働者ばかり優遇する。間に挟まれた俺たちはどうしたらいいんだ」と嘆く。今のところ、文政権が経済政策の基本方針を変える気配はない。
(朝日新聞社 牧野愛博)