●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2019年4月
老いていく韓国
韓国統計庁が3月28日、韓国人口の推計値を発表した。女性が一生に産む子の数を示す合計特殊出生率が2021年に0.86まで下がるという。韓国では昨年、合計特殊出生率が0.98で、統計を始めた1970年以降、初めて1を割り込む事態になっていた。
これがどれほど深刻な数値かと言えば、経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国で、合計特殊出生率が1を割り込んだ国は韓国だけということからわかる。16年基準では1.3未満の国もない。日本の場合、16年基準では1.44だった。
こうなると当然予想されるのが、深刻な高齢化社会だ。韓国では15年に13.8%だった65歳以上人口が、65年には46.1%になる。これもOECD加盟国で最高だ。同じく高齢化社会だと言われる日本の場合、65歳以上人口は15年に26%だったが、65年には36.2%になるという。
韓国では「漢江の奇跡」と呼ばれる急速な高度成長を果たした。「欧米が100年、日本が50年かかった高度成長を、我々(韓国)は30年で達成した」という声も聞こえるが、当然のように社会資本の蓄積もない。欧米でみられるような数世紀も前の建築物や道路、橋などを利用する姿はほとんど見られない。
当然のように、年金などの蓄えもない。韓国では高齢者の年金は月額100万ウォン(約10万円)ももらえない人がたくさんいる。街には必ず、「無料給食所」が置かれている。先日も、ソウル市のど真ん中の鍾路で、給食所の前に列をつくっているお年寄りの姿を見かけた。
一方、韓国は女性進出がめざましい。先日食事をした外交部の課長は「自分以外の課員は全員女性」と話してくれた。お昼ごはんも、気軽に課員を食事に誘えないので、韓国ではあまり見かけない「ホンパプ(一人ごはん)」をやらざるを得ないとぼやいていた。
女性がずっと働いていくためには、育児施設や教育施設、共働きへの理解などが不可欠だが、そういった社会的なインフラの整備は遅れている。
また、韓国は世界に冠たる「塾の国」だ。熾烈な競争社会を勝ち抜くため、小学校高学年から深夜まで塾に通う。教育費の負担は当然、両親の肩に重くのしかかる。私の周りの韓国の知人たちのなかには、子ども1人あたり、月額100万ウォンの私教育費用を払っている人も珍しくない。
これでは、結婚しよう、子どもを産んで育てようという考えにはなかなかなれないのかもしれない。
これからの韓国はどこに向かっていくのだろうか。4月2日、私は通算9年半、お世話になった韓国の地を離れた。
(朝日新聞社 牧野愛博)