●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2019年11月
ホテル
10月22日は天皇即位礼の日だった。その数日前、外務省に出かけたら、講堂で大勢の職員が仕事をしていた。様々な国から要人が来日するため、その対応でてんてこ舞いだったようだ。東京にいる外交官だけでは数が足りず、海外の大使館に勤務している職員も呼び戻されていた。
折しも、東京はラグビーのワールドカップも重なり、大勢の観光客でホテルが不足していたという。様々な国の要人をホテルに割り振るのも一苦労だったようだ。外務省の幹部は「日本が招待している場合、我々が費用を負担するが、それは決められた期間だけ。滞在を延長したいという国もあったが、税金だから応じる訳にもいかず、大変だった」と語る。
あんまり大きな声では言えないが、国によってはホテルマナーが悪いという噂が立つ場合もある。そんなときは、事件が起きないよう、担当の日本外交官は必死で応対するのだという。
日本は非常に治安が良い。外国では、情報機関が平気で外国政府の宿泊施設に侵入したりもするが、日本では聞いたことがない。海外のお客さんにとってはとても居心地が良いだろう。
また、今回の行事とは関係なく、どの国も外国に出張する場合、ホテル代には上限が定められている。国にもよるが、大体150~300ドル(約1万6千~3万2千円)といったところだろうか。
ある国は、それまで定宿にしていたホテルがリニューアルしたため、宿泊金額が値上がりして、補助の上限を超えてしまった。この国の外交官は「東京五輪が終わって、ホテル代が下がってくれることを祈るしかない」と苦笑いしていた。
日本の役人も海外に出るときは、ホテル代には上限がある。民間の会社と同じように、役職が上がれば、多少はホテル代も上乗せされる。だから、上司と部下で違うホテルに泊まったりもする。私が特派員として駐在していたソウルの場合、ちょっと前までは古びたホテルが多く、「宿泊した部屋に窓がなかった」「変なにおいがこもっていた」など、評判の悪いところも多かった。
最近は、ソウルにも新しいホテルがどんどんオープンしている。日本企業が参画したホテルも増え、公務員の人たちも愛用しているようだ。
ちょっと気の毒だったのは、自衛隊の人たちだった。あるとき、自衛隊の将官がソウルにやってきた。「どこにお泊まりですか」と聞いたら、他の官庁の一般職員も利用しているホテルだった。
どこの国でもそうだが、軍組織は威厳や格式を非常に重視する。上官の威厳が保たれないと、組織の規律に問題が出る。部下たちが「尊敬できない上官の命令なんか聞いていられない」などと言い出したら、部隊が全滅してしまうからだ。最近では災害救助での献身的な活動などを通じ、自衛隊に対する世論の理解も進んでいる。気の毒な将官の話も、もう10年前になるし、今は改善されていると信じたい。
(朝日新聞社 牧野愛博)