●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2024年9月
選良
11月の米大統領選に向け、民主党は候補者をバイデン大統領からハリス副大統領に差し替えた。友達の外交官は「僕はアメリカ人じゃないけど、良かったと思いますよ」と話す。彼は最近、国際会議の仕事でバイデン氏を間近に見る機会があった。バイデン氏は発言の機会に、最初は米国の外交政策を語っていたのだが、途中で話がおかしな方向に流れ、トランプ前大統領の悪口に変わってしまったという。「どう見ても、高齢の影響にしか思えなかった」と知人は語る。候補がハリス氏に代わり、民主党の支持は上向いている。それだけ、有権者がバイデン氏に危機感を持っていたということだろう。
一方、有権者が間違えることもある。過去、最大の悲劇はヒトラーだろう。ヒトラーは1933年1月にドイツの首相に選ばれ、独裁的な手法で強大な権力を手に入れた。ヒトラーのやり方に多くの問題があったとはいえ、「合法的に権力を手に入れた」と言われるゆえんだ。当時のドイツ国民は、第1次世界大戦の敗戦による巨額の賠償金と世界恐慌のなか、失業率の改善や生活水準の向上などを訴えたヒトラーに希望を見出した。ヒトラーと同一視するつもりはないが、米国民がトランプ前大統領を支持する背景にも変化を求める気持ちや経済的な要素が大きく働いているように見える。最近、取材したトランプ氏を支持する米国人も「彼なら生活を良くしてくれるはずだ」と語っていた。この米国人に言わせると、民主党は黒人やヒスパニックの権利ばかりを尊重し、本当に弱い米国人のことを考えていないのだという。
確かに、これまでの米国政治は、「弱い人々を助ける民主党」と「既得権益を守る共和党」との戦いだった。でも、今はむしろ、「持続可能な成長」や「ジェンダー」などの問題に敏感にならざるを得ない財界・企業や知識人が民主党を支持し、こうした理想主義の陰で生活に苦しむ人々が共和党を支持する傾向が出ている。共和党は過去、「カントリー・パーティー」(ゴルフのカントリークラブを利用するような人々が支持する政党という意味)と呼ばれたが、今は違う意味での「カントリー・パーティー」(地方=カントリーに住む人々が支持する政党という意味)になったと言われている。
先日行われた東京都知事選では、大量得票を得た候補がいた。選挙直後に会った財界人や政府関係者らの反応は「間違えた」だった。彼らの投票理由は「変化が期待できる」「他に票を入れたい候補がいない」というものだったが、この候補が選挙後に「上から目線」で発言する様子を見て、がっかりしたのだという。
米国では、初めてのデートにでかける子供に対し、両親がかける言葉がある。それは、「レストランに入ったら、ウエイターやウエートレスに横柄な態度をとるな」というものだ。社会的に弱い立場にある人に偉そうに振舞う人間は嫌われる。そんな姿を見せたら、デートの相手も失望するというものだ。
9月には自民党の総裁選がある。私が聞いているなかでも、閣僚を経験した人のなかに「国会や記者会見での答弁要領をこと細かく、徹底的に役人に準備させる」「出張先でタバコが吸えないと不機嫌になり、禁煙エリアでも罰金を払うから吸わせろと騒いだ」など、人間的に尊敬できない人々が含まれている。ぜひ、「選良」と呼ばれるにふさわしい人を選んでほしい。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)