●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2016年1月 最近の韓国オンドル事情
ソウルは福島県ぐらいの緯度なのだが、シベリアからの寒冷な空気が吹き込むため、冬の訪れが早い。今年も11月末には早くも朝の気温が零下になった。みんな、コートにマフラー、手袋と重装備で街を行き交う。
それでも11月半ばまでは温暖な気候が続き、最後の秋を楽しんでいた週末のこと。妻は人一倍、寒がりのうえ、この日は風邪気味で朝から機嫌が悪かった。ぶつぶつ言っているのを聞くと、「部屋が薄ら寒い」と文句を言っている。
私のアパートもご多分に漏れず、オンドルがついている。温水が床に流れるようになっているので、これを使えば相当暖かくなる。妻はオンドルを使おうとしているのだが、部屋は暖かくならず、それで機嫌が悪くなったようだ。
「きっと、機械の故障よ」と怒り、ついに管理事務所に電話をかけた。前回、韓国で5年も生活したおかげで、たどたどしい口調ながら、韓国語でそれなりの会話はできる。
最初は勢い込んで、文句を言っていたようだが、だんだん口調がおとなしくなってきた。きっと、先方に丸め込まれたのだろう。5分ほどして、あきらめたように電話を切った。
「どうだったの」と聞いたら、「機械の故障じゃないんだって。外の気温が10度以下にならないと、オンドルが作動しないのよ」と愚痴を言った。
無駄な電気を使わないようにするという節約志向の話だから、怒るに怒れなくなって、抗議をあきらめたのだという。
確かに韓国では、数年前のリーマンショックのころ、世界中の原油価格が値上がりしたことを受け、政府が音頭を取って、大規模な節約キャンペーンをやったことがある。役所の個人用の暖房機は取り上げられ、役人たちは「寒くて仕事にならない」と悲鳴を上げ、ズボン下やコートで重武装しながら仕事をしていた。
どうもその影響もあるらしい。私の会社は提携する韓国の新聞本社の中にあるが、土曜日になると全体の暖房が切られる。韓国の新聞は日曜が休刊日なので、土曜日はほとんど社員が出社しないからだ。私も土曜日の勤務の時は、公務員と同じ格好で仕事をする羽目になる。
1年間暮らした米国はそんなことはなかったな、とも思った。暖房は使い放題だし、洗濯するときは自然乾燥などという発想はなく、ほとんどの人間が乾燥機を使っていた。「もったいない!だから米国人は」などと偉そうなことを考えた自分だから、こういう韓国側の説明には抵抗できない。
今年はエルニーニョ現象で、少しばかり暖冬だというが、ソウルの冬は長い。さすがに11月末にはオンドルがいつでも使えるようになった。電気不足で苦しむ北朝鮮の人々のことが気にかかる。
(朝日新聞社 牧野愛博)