●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2017年6月
サッカーW杯U-20がやってきた
サッカーのワールドカップ・アンダー20の大会が5月、韓国各地で開かれた。小学生の長男にせがまれて、1次リーグの日本対南アフリカ戦(水原)と、日本対イタリア(天安)のチケットを手に入れた。
ソウル近郊の水原で行われた試合には親子3人で、その翌週、天安での試合には、妻と息子が同級生の親子と計4人で、それぞれ観戦に行ってきた。
私もサッカーの試合を観戦するのは久しぶりだったが、入り口に金属探知機が置かれていて、「結構物々しいんだな」と少し驚いた。最近はテロ事件も起きているし、韓国ではつい先日、サッカーの別の試合で、日本のチームを応援したファンが旭日旗を掲げて物議を醸したことがあったばかりだった。
ゲートではペットボトルは全部没収された。競技場内の売店でペットボトル入りの水を買うと、キャップを外したうえで渡された。
水原の試合では、割と日本人の観客も多く、私たちの座席の周囲も、同じように韓国に住む日本人が大勢いた。私はあいにく、試合開始直後に北朝鮮がミサイルを発射したという速報が流れてきたため、すぐソウルに戻る羽目になったが、妻と子どもは試合を堪能して戻ってきた。
翌週、今度は妻と子どもが、同級生の親子と計4人で天安に出かけた。夜遅い試合だったので、心配して待っていたが、それでも無事夜中にソウルの自宅に戻ってきた。
様子を聞いてみたら、今度は妻たちが座った場所は、ほとんど韓国人ばかりで、最初は「完全アウェー」の気分だったという。もしや、イヤな思いでもしたのか、と心配して聞いてみたが、そうでもなかったらしい。
相手のイタリアが序盤に2点を先制すると、韓国人の観客たちは大歓声を上げたが、それはただ、プレーに興奮しただけだったらしい。日本が同点に追いついたときも、同じように歓声を上げていたし、「チルボン、チャレー(7番の選手、うまいな)」などという声も聞こえてきたという。
子どもは子どもで、手書きでつくった応援ボードを振り回し、同級生と一緒に興奮して応援していたようだ。妻たちは、周囲の韓国人の視線を遮りはしないかと、かなり気をもんだようだが、韓国の観客たちも一緒に喜んで見てくれていたらしい。
新聞記者の仕事をしていると、どうしてもニュースを追いかけるので、日本と韓国がもめているとか、そういう派手な事件ばかりに目が行ってしまう。先日の旭日旗の事件もそうだった。でも、それはごく一部の話で、大多数の人たちはこんな風に平和に楽しくやっているんだと、改めて教えられた。
(朝日新聞社 牧野愛博)